大海の一滴
あれは二十歳を過ぎて、初めて父と二人、酒を酌み交わした時の事だ。
美味い焼き鳥屋があると連れられて出向いたのは、大衆食堂を思わせる小汚い個人店で、引き戸を開けると目に染みる香ばしい煙が立ち込めていた。
当時大学生だった達之は面食らったものだ。
仲間と行く居酒屋はもっと小奇麗で、メニュー豊富なチェーン店だったからである。
ジェネレーションギャップ。確かそんな言葉がフッと浮かんだ。
ところがどうしたものか、父の言うとおり、炭火で焼いた鳥は驚くほど美味かった。
茹でたホルモンにポン酢をかけたお通しも、ところどころ炭火で黒焦げた鳥の皮も、醤油の辛味が利いたつくねも、何もかもがビールを引き立たせた。
年の功。げんきんな物で、次にはそんな言葉が浮かんだものだ。
しかし、いくら尊敬しているとは言え、父と二人きりの食事はどうにも気まずかったのも覚えている。
もともと寡黙な達之の父は、何を話すでもなく出来立ての焼き鳥を黙々と口に運んでは中ジョッキと一緒に胃の奥へ流し込み、注文の品を全て平らげるとメニューに目をやって串を二本ずつ注文した。
達之もそれに従い、しばらく息の詰まる時間が続いた。
せめてもの救いは、カウンターに横並びで座っていたことだった。
これが向かい合わせのテーブル席だったらいよいよ気まずかったことだろう。
そう考えながら父の選んだメニューを摘み、早いピッチでジョッキを空にしていった。