大海の一滴

「藤川さんは、臓器移植についてどれくらいご存知ですか?」

(この人の話は、唐突に始まるな)

 そう思いながらも尋ねられたことを復唱する。



 臓器移植。


 つい最近、深夜ドラマでもそんなテーマの奴をやっていた。


 それから達之は、秋野月子が「知っていますか?」では無く、「どれくらい?」と知識量を尋ねて来たことを思い返し、ちょっと気分が上向いた。

 これぞ男のプライドをくすぐる言い回しである。
そんなことで喜ぶのだから男は単純だ。
 そして達之は、残念ながら非常に男らしい。


「ええと。確か、移植以外治療法の無い病気の場合、ドナーから提供された臓器を適合者に移植することを臓器移植と言って、生きている人の臓器を分けてもらう生体移植と、脳死判定になった人の臓器を移植する二つがあるんですよね。日本では脳死の概念がまだ確立していないから、なかなか脳死における臓器移植の手術が出来ず、待ちきれずに渡米して移植を受ける人が多い。ニュースを見ている限りでは、幼い子供がよく渡米して手術を受けている気がします。ただ、莫大な費用がかかるため、それもなかなか難しいようですが。それから手術が上手く行っても、その後、感染症で亡くなってしまう人もいるとか」



 鼻の穴を膨らませあれやこれやと話してから、達之はしまったと口をつぐんだ。

 喋りすぎだ。

 これじゃあ、無知の癖にうる覚えの知識を何やかやとひけらかして得意げな顔をする、あの五十嵐みたいだ。




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