大海の一滴
「当時患っていた症状、飲んでいた薬、それから、移転先の病院で受けた治療を思い出せる限り思い出し、医学書等と照合してみた結果、臓器移植を受けた可能性があることがわかりました。ですが、私には専門的な医学の知識があるわけでもなく、結局それ以上の詳しいことはわかりませんでした」
達之は、彼女の話に耳を傾け、頷いた。
確かに、高校を卒業したばかりの少女が知れることなど、たかが知れている。
「そこで行き詰ってしまった私は、方向性を変え、母宛に送られてきた、手紙や書類を徹底的に調べ、父親への手がかりを探すことにしました。何かしら取り決めがあったのか、それとも、母自身がただそうしたかっただけなのかはわかりませんが、母は私に、あなたの父親は政治家をしているとしか、教えてくれなかったのです」
「そのうちに、ある弁護士事務所の名前が浮上しました。月々の養育費が、その弁護士事務所から銀行に振り込まれていたのです。私は、話を聞きに行くことにしました。面会した弁護士は、職業柄硬く口を閉ざしていましたが、私が母の現状を話すと、同情したのか、オブラートに包みながら、事実を語ってくれました」
「彼が言うには、私の入院していた病院は、国の認可により、様々な治験を行う専門施設で、日本での脳死による臓器移植法の制定にあたり、その準備を行っていたといいます。臓器は、孤児院や虐待にあっている子供達が、不慮の事故により脳死になってしまった際、適合する子供で、且つ非常に命が危ない時に限り、移植手術を行っていたらしいのです。そこには、厳しい取り決めがあり、母の言うような、殺人まがいのことは断じて行っていない、とのことでした」
(なるほどな)
「それから、もうひとつ分かったことがあります」
彼女の澄んだ瞳が、達之をしっかりと捉えた。