大海の一滴

 まあ、モテる男に浮気の一つや二つは付き物だ。
それに、大人の男は秘密があった方が魅惑的なのだ。
 逆に言うなれば、浮気の一つも出来ないような男には何の魅力も無いのである。

 とは言え、私も菩薩のような心の持ち主ではない。事態は深刻である。
だがしかし、ここで安易にタツユキ君を攻めてはならないのだ。


 ふわふわで真っ赤なマタニティドレスを身に纏った愛美ちゃんママは、魅惑的に言っていた。

「男のDNAにはね、自分の子孫を沢山残しなさいって刻まれているの。だから、浮気をしてしまうのもある意味仕方の無いことなのよ。けれど、女が好きな人を独占したいという気持ちもまた本能だから、事態は深刻なのね」

 何とかチェアというゆらゆら揺れる椅子に座って大きなスピーカーで小さくモーツアルトを聞きながら、愛美ちゃんのママはお腹をゆっくりさすった。
 そうやって過ごすと、天才児が生まれるのだそうだ。

「でもね。男っていうのはとても傷付きやすい生き物でもあるの。だから怪しいと感じてもむやみに怒ってはいけないのよ」

 ならば、どうすれば良いのか。

「実はとても簡単なことよ。あなたが相手の女性よりも美しく魅力的になって、彼の子孫を残すのに最も相応しい女になれば良いだけのことなのだから」

 愛美ちゃんのママのぽってりした唇が、不敵に微笑んだ。

「女の武器はフェロモン。つまり、あなた自身が持っている色気ね」


 なるほど。


 ただ、問題が一つある。


 タツユキ君の浮気相手はもう一人の私の親友であり、そして私の一部でもあるのだ。


 つまり私は、『私』と言う女性よりも美しく魅惑的な女にならなければならないのである。



 なかなかに難儀なことである。




 どちらにしても、時は満ちた。




 決行は今夜。




 麗ちゃん先生と王子様、美和、タツユキ君のシンデレラ、それともう一人。







~~~ 私は、この中の誰かを、殺すのだ ~~~







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