大海の一滴
「公務員は安定している。教師になるということは、あなた自身が立派であるという証明にもなるのよ」
物心つかないうちに子守唄のように繰り返されてきた言葉は、無意識のもっと奥の方に張り付いていた。
麗子は疑うことを知らずに成長し、高校卒業後、有名大学に推薦入学。
教員試験も一発合格。
小学校の教員として即採用。
挫折知らずの人生を歩んできたのだ。
親に逆らったことなど一度もない。
言うことを聞いていれば褒めてくれたし、上手くもいった。
唯一の反抗と言えば、高校の教員ではなく小学校の教員を選んだこと。
それだって、少し顔をしかめられたくらいで強く反対はされなかった。
小学校であれ、高校であれ、夏川家で最も大事なのは『教職』に付いたという事実なのである。