大海の一滴

 麗子の四肢がだんだん縮み始めた。

 長く茶色い髪色は黒く短く切り揃えられ、丸みを帯びた女らしさも徐々に失われて行く。





『大丈夫、僕が守る。僕を信じて』
 甲高い男の子の声。



『私が、私が殺したのよ』
 聞き覚えのある女の子の声。




『へえ、れいちゃんって言うのか。可愛い名前だね』
 変声期の掠れた男の子。




『私は小五で、れいちゃんは小四だから、一コ下なんだね』
 少し変わった女の子だった。




『夏川さんって、あんなちびデブと付き合ってるんだ~! お似合いよね~』
 ちくちくと小さな胸が痛む。




『れいちゃんと、遊んだら、ダメなんだって』
 どうして?




『みんなでよってたかって、一人を苛めるのは卑怯よ』
 そんなこと、言ったらダメよ。




『夏川さんの絵が、なんと、最優秀賞に選ばれました。みんなで拍手をしましょう』
 先生、やめて。




『れいこは頭のいい子だから、分かってくれるわよね』
 お母さん。









 深海魚の内側で、麗子は少女を見つけた。

 身体を小さく丸め耳を塞ぐ姿は、母体で眠る胎児のようだ。

 麗子は、彼女の肩に手を伸ばした。振り返った少女を見て息を呑む。




 子供の頃の自分だった。





 空虚な瞳がジットリと、麗子に卑しい視線を投げかけた。



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