大海の一滴
REIKO's Story
「れいこは頭のいい子だから、分かってくれるわよね」
まただ。れいこは思う。
(そうやって、お母さんもお父さんも、いつも私をのけ者にする)
思いながらも、唇をきつく噛み締め、れいこは頷いた。
「分かってくれたのならいいわ。まだ夕飯までに時間があるから、勉強してらっしゃい」
紺色のスーツに赤と黒のチェックのエプロンを掛けながら、お母さんはくるりと背を向けた。
れいこは黙ってキッチンを後にする。
強く噛み締めすぎたのだろう、乾いた唇を舐めると、端の方で鉄の味がした。
机の引き出しから茶封筒を取り出し、中に入った数枚の写真を見つめる。
ピースサインのみよちゃんとかえでちゃんが写っている。
その隣りで嬉しそうに笑うれいこもいる。
かえでちゃんのお誕生日会に呼ばれた時、かえでちゃんのお母さんが撮ってくれた写真だ。
れいこはそれをプラスチックで出来た半透明の写真入れの中へ、丁寧に収めていった。
前のページにはみよちゃんの家でやったお誕生日会の写真も入っている。
れいこは、ただの一度もお誕生日会で主役になったことがない。
高校教師のお母さんは忙しくてそんなことする暇がないのだ。
誕生日のケーキだって、帰りがけにコンビニで買った三角形で二個入りのケーキだけ。
家族三人で大きなホールケーキを分けあった記憶すらない。
考えるうちに両の目から涙が流れ出した。
(今回は、転校までしなくちゃならないのに)
かえでちゃんもみよちゃんもいない学校なんて考えられない。
れいこは一人、会ったこともないおばあちゃんの家に預けられるのだ。