大海の一滴
新幹線と特急、それから在来線をいくつか乗り継いで行くと、窓の外に海が広がった。
「海だ」
れいこの気持ちが少しだけ華やぐ。
「そうね」
海もれいこの顔も見ないで、手にした文庫本の活字を上から下へと読み進めながら、お母さんはそっけなく応えた。
(私はもらわれ子なのだわ)
たまに思う。
本当のお母さんはどこか別にいて、若しくはもう亡くなっていて、今目の前で読書に明け暮れているのは継母なのではないか。
それなら納得がいく。
きっと、私はお母さんの本当の子供じゃない。
本当の優しいお母さんはもう死んでしまったのだ。
私はその娘の可愛そうなシンデレラ。
「おばあちゃんの家から、海も野原も近いけれど、友達と一緒に遊び回るのはやめてちょうだい。とてもみっともないことだから。あなたは都会から来たことに誇りを持って、勉学に励んで。暇で人の噂話ばっかりするあの町の子供達とは違うのよ。同じように過ごしていたら、将来教職に就けなくなるわ。いいわね」
本から目を離し、お母さんがれいこをきつく睨みつける。
「……はい」
れいこが返事をすると、いい子ね。と、また活字に戻っていった。
(やっぱり、私はもらわれ子なんだわ)
れいこは確信した。