大海の一滴
「おはようございます。今日から新学期が始まりました。これから一年間、あなた達の担任をする後藤真紀子です。宜しくお願いします」
「は~い」
「それではまず始めに、新しいお友達の紹介をします。夏川れいこさんです。夏川さんは、ご両親が海外でお仕事をすることになったため、しばらくの間、おばあさんの家で暮らすことになりました」
「先生、私知ってます! 夏川さんのお父さんって、『脱教育改革』という有名な本の著者でしょ?」
「曽根さんは物知りですね」
「へえ~!」
「作家の娘かあ! すげ~」
「有名人の子供なんて初めて~」
「さすが都会人」
「はい、静かに。皆さんは三年生からの持ち上がりなのでもう仲がいいですが、夏川さんは何もかもが初めてなので、是非力になってあげて下さい」
「は~い」
「では、夏川さん。自己紹介をお願いします」
キーンコーン、カーンコーン。
「ねえねえ、れいちゃんって呼んでいい?」
「渋谷とか行ったことある?」
「原宿のクレープ食べてみたいんだよね」
「印税ってガッポガッポ入ってくるって本当かよ?」
「じゃあ、夏川って金持ち?」
「そのリボン、可愛いね。どこで買ったの?」
クラスのみんながれいこに注目をする。
こんなこと初めてだ。まるで、私が世界の中心みたい。
れいこはいい気分だった。ここはいい町じゃない。
お母さんはどうしてあんなに毛嫌いしているんだろう。
一学期は、あっという間に過ぎていった。