大海の一滴
「まあ、やっぱり真知子の娘だねぇ。すごいじゃないか。こんなに沢山通信簿に五が並ぶなんて。おばあちゃん、近所の人達に自慢しちゃおう」
「おおげさだな、おばあちゃんは」
「今日はお祝いだね。おばあちゃん、年金で沢山ご馳走作らなきゃね」
「本当? おばあちゃん、ありがとう」
「じゃあ、夕御飯はお楽しみに。それまで遊んでおいで!」
「うん! まあちゃん達と海に行く約束してるんだ」
「まあちゃんって、曽根さんところのまおみちゃんかい?」
「そう! 学級委員長やってるんだよ」
「やっぱり親子だね。あんたのお母さんも昔、曽根さんと仲良しだったんだよ」
「へえ」
『れ~い~ちゃん、あ~そ~ぼ~』
「は~い! じゃ、行ってきま~す」
れいこはランドセルを放り出し、急いで玄関へ向かった。
お母さんに言いつけられた一日四時間の勉強は、とっくの昔に止めた。
だって学校で今習っているのは、前に塾でやったものばかり。
予習復習しなくても簡単に満点が取れるのだ。
おばあちゃんも子供は外で遊ぶもんだよと笑ってくれる。
おばあちゃんはとても優しいしおやつも沢山くれる。
お風呂上りのアイスも、夜更かししながらポテトチップスを食べることだって許してくれる。
(これで、テレビゲームを買ってくれたらサイコーなんだけどな)
少しきつくなったキュロットのゴムを両手で伸ばしながら、れいこは思った。
今学校で流行っているのが欲しいけど、年金暮らしのおばあちゃんにはそこまで頼めないな。
(まあちゃん達に借りればいいっか)
れいこは駆け出した。