大海の一滴

「やーい、カズのちびデブ」
「返してよ」

「この消しゴム、きったね~」
「返して」
「ほれほれ」


「またユウタたち苛めてるよ」
「本当だぁ」
「でもね、仕方ないよね」
「うん、やっぱりカズって気持ち悪いもんね」
 あははは。


「えい」
 真っ黒でちっちゃい消しゴムが、れいこ達の方へ転がり落ちる。



 きゃ~~~。きったな~い。




「おい、まおみ。それ、拾ってやれよ」
 ユウタ君がニヤニヤしながらまあちゃんに話しかける。


「え~、無理。だってこれ、すっごい汚いしぃ~」
 まあちゃんもニヤニヤしながら言い返した。




 キーンコーンカーンコーン。

 昼休み終了のチャイムが鳴った。
れいこは消しゴムを拾い上げ、真っ赤になって泣きべそをかいているカズ君に渡した。


(やっぱり、気持ち悪い)


 カズ君はれいこより背が低いくせに、二段腹で顔中ニキビだらけだ。おまけに生え変わりで歯が何本も抜けている。


(でも、やっぱりこんなの良くない)

「みんなでよってたかって、一人を苛めるのは卑怯よ」
 れいこは叫んだ。

「夏川さんの言うとおりです。皆さん、もうこんなこと止めましょうね」
 いつの間にか、先生が後ろに立っていた。
「夏川さんは勇気ある行動をしました。みんな、夏川さんを見習って下さい。拍手」




 パチパチパチ。

 とってもいい気分。



「夏川さんありがとう。ぼく、一生忘れないからね」

 カズ君がれいこの近くまで来て、嬉しそうに笑った。

 前歯が一本抜けていて、そこからスーっと息が漏れる。
れいこは背中の辺りがゾワッとなった。

(やっぱり、カズ君って気持ち悪い)
 心の中でれいこは思った。



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