大海の一滴
冷気を含む湿った空気がピンクのワンピースに纏わり付き、更に不快な気分を煽る。
近頃の異常気象にはほとほと辟易する。
特に梅雨の季節は天気も気温も安定しない。
三十℃を有に超える真夏日になったかと思えば、今日のようにジメジメと肌寒い日に変わり、そのうちに雨が降り出すのだ。
病院周りの後、気分転換にショッピングでもしようと思っていたのに、この悪天候にそんな気分も失せてしまった。
今にも泣き出しそうな空を苦々しく見つめ、麗子は折り畳み傘を取り出した。 日傘兼用の黒い蝶をあしらったそれは、先日デパートの特設会場で一目惚れをして購入したものだ。
(最近、衝動買いが多くなった気がする。気をつけないといけないわ)
ぼおっと考えながら左手首の腕時計をチェックすると、午後五時を少し回ったところだった。一哉との約束まで二時間半も残っている。
折り畳み傘の骨を丁寧に伸ばしながら麗子はまたぼおっと考える。
(歩き回るには適さない天気だわ。どこか落ち着ける場所ないかしら。……図書館だわ)
確か去年完成した駅ビルの最上階に、小さな図書館が新設されたはずだ。
土日も午後七時まで開館していると、いつだったか、市の広報誌で紹介されていた。
規模が小さそうで利用したことが無かったけれど、暇潰しには丁度良さそうだ。
(ついでに自分の病状を調べてみようかしら。もしかしたら、何か分かるかもしれない)
藪医者よりも医学書の方がきっと役に立つ。
傘を掲げると、待ってましたとばかりに雨粒が落ちてきた。