大海の一滴
神様は、こんな私にも分かりやすいように、まるで、忘れていたことを思い出しているかのごとく、少しずつ説明してくれた。
「一卵性双生児の魂は輝きが似ている。お前の妹は魂の器には傷があった。傷のある器は、魂の成長に耐え切れず割れてしまう。そこで新しい器に魂を移し変えるため、一旦海に流す予定だったのだ」
「ところが、間違え……不備があり、お前が海に流れた。新しい器は既に出来ていたから止む無くお前の魂をそこへ移し変えることにしたのだが、傷一つないお前の新品の器は、魂と強く癒着して分離出来なかった。そしてお前も生き残ってしまった」
「……」
「そこで、残念だがせっかく作った新しい入れ物を一度壊し、面倒だが妹の器が壊れた時に再び新しい器を作ることにしたのだが……」
「?」
「予期せぬ……いや、もちろん、想定内ではあったが、思っていたよりも早く妹の器が割れ始め、私は急いで魂の回収に向かわねばならなくなった。そのせいでまた間違え……」
「?!」
「うほん。不備により、お前の魂を持ち帰ったというわけだ。お前の魂、器から剥がすのに随分骨が折れるとは思っていたが、そこは優れた技術力を持つ私だ。上手く引き剥がすことに成功したのだ」
「……」
「つまり、死ぬはずだった妹は生き、生きるはずのお前が死んだ。ここまではよくあることだ。帳尻合わせも分けない。しかし誤算が生じた……」
「なんと人間は、器を修復する技術を身につけてお前の健全な器から臓器を取り出し、妹の傷を治療した。なんと有難いことだと思っていたら、ついでに死ぬ予定の子供まで治してしまったのだ。すると、どうだ。なんと、魂と器の需要と供給のバランスが崩れ出し、それは波紋のごとく広範囲に作用し始めた」
「なんと!」
「例えば、高校教師になり職場結婚をして二つの器、つまり現在二人の子供を産んでいるはずの夏川麗子が独身になり、苛めを苦に自殺する予定だった早瀬一哉が思い留まった。これだけでも計算が面倒くさいと言うのに、波紋は更なる波紋を作り、私の仕事はどんどん……うほん」
神様の咳払いは、大変高貴である。