大海の一滴
「夕飯なんだけど、デパ地下のお惣菜でいい? ちょっと遅くなっちゃって」
美絵子にしては珍しいな、そう考えながらも達之はカラリと笑った。
「そんなこと、気にしなくていいよ。それより、今までずっとどこに行ってたの?」
「え? あら、言ったじゃない。高校の同窓会が新潟であって、その後お友達と温泉旅館に泊まるから一週間家を空けるって。あなたもゆっくりしておいでって送り出してくれたわ」
買ってきた惣菜を皿に盛りながら美絵子が当たり前のように話す。
そう言えば家事を頑張ってくれている褒美に、気が済むまでゆっくりして貰おうと思っていたような……気がする。
「そうだったっけ。最近仕事が忙しくて、なんか忘れっぽいんだな」
「ごめんなさい。そんな時に家を留守にしてしまって」
「いや、全然不自由なかったよ」
そう。家の中も綺麗にしていた。
(あれ? 仕事があんなに詰めていたのに、オレが部屋を片付けていたのか? それとも、……美和??)