大海の一滴

「あなた。そんなところで寝たら風邪をひくわ」
「う~ん、美絵子~。愛してるよ~ん」



「……。さ、寝室に行きましょう」









 美絵子の手が右の頬を優しく撫でる。
 達之の身体は反射的に美絵子を引き寄せていた。


(??)


 美絵子はまだ青いワンピースを着たままだった。


(それはそれで)
 なめらかな生地が、酔っぱらった達之の気分を更に高める。



 思いながら、美絵子の細くしなやかな身体を強く抱きしめた。

「愛してるよ」

 美絵子のすべらかな手の平が達之の短髪からもみ上げを通り、顔に触れ、肩へと下りて行った。



「私もよ。タツユキ君」




 キスをしようと、頬に近づけた達之の手が止まる。

(なんだろう。何かが、おかしい気がする)


「どうしたの?」


「……」



「ふふ。じゃあ、私から」

 達之の首に細い腕が巻きついた。



 徐々に甘い吐息が近づいてくる。



 達之は静かにその腕を引き剥がし、そのまま起き上がった。





「君は、美絵子じゃない」





「……酔っ払っているの?」

 頭は、妙に冴えている。

 おかしなことを喋っているのも分かる。

 目の前にいるのは、その身体は紛れもなく美絵子なのだから。




「でも、中身が違う」
「中身?」


「ずっと、違和感があったんだ。でも、自分のいいように解釈しようとしていた。だけど、やっぱり違う」
 達之は、もう一度、きっぱり言い放った。


「君は、美絵子じゃない」
「ふふ。さすがはタツユキ君。私の見込んだ男だわ」


 彼女は、怪しく微笑んだ。






「だけどもう、決まったことなのよ」






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