大海の一滴

 どのくらいの間、両手で顔を覆ったまま、止まっていたのだろう。



 それは酷く長い時間に感じた。
同時に、一分にも満たないごく僅かな時間にも思えた。

 静寂した時が、麗子を包み流れて行った。
感情をむしり取られたように、涙を流すわけでも、怒りや悲しみに暮れ沈むわけでもなく、ただただ、麗子は蝋人形のようにそこに座り続けた。





(本当に、それでいいの?)





 頭の奥で声がした。


 だって、仕方がないじゃない。それに、一哉もそのつもりだった。



(それは、あなたが望んだからじゃない?)


 そうかもしれない。けれど、どっちみち答えは一つしかなかったはずだわ。




(本当に?)
「本当よ!」


 甲高い声が空間を突き破り、ショートグラスの内容物に波紋を広げる。


「…………」

 麗子はその美しい琥珀色をぼおっと眺めた。
拒まれ置き去りにされたグラスは、麗子の代わりに沢山の涙をカウンターに流していた。



 見たこともないカクテルだった。




 ふと、レジ脇に申し訳なく飾られている、茶色い木枠が目に止まる。
何かのカクテルの写真が付いた賞状が収められていた。


『第24回カクテルコンペティション 審査員特別賞』



「あ」




 コンテストに出すカクテルを創るため、ずっと一哉は頑張っていたのだ。



「?!」

 受賞した日付を見て更に驚く。


 それは二週間以上も前だった。





「どうして、話してくれなかったの?」







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