大海の一滴
「昔、オレが小学生だった頃、幼馴染の女の子がいた。二つ年下でオレ、一人っ子だったから妹みたいに可愛がってたんだ。でも、ある日突然その子は引っ越した。それっきりだった。そうなってみて初めて気が付いた。オレはあの子が好きだったんだって。オレは、さちちゃんを見る時、いつもその幼馴染の女の子を思っていた」
五センチ。
「つまり、あの頃からオレは、君を好きじゃなかった」
無念。
私は、大きな大きな溜息を付いた。
「神様が、リストにあなたを入れなかった理由が分かったわ」
「え?」
だって、最初から二人は相思相愛だったのだ。
私はタツユキ君に向けて、精一杯笑った。少女らしく、にっこりと。
「大丈夫よ。元気でね、タツユキ君」
そして、人魚姫は泡になる。