大海の一滴
「紅茶オッケー、お菓子良しっと。後は早瀬先生が来るだけだ」
(三者面談か)
先生と言う響きに気が重くなる。
優等生とは言えない学生時代のせいで、先生と聞くとどうもアレルギー反応が起こるらしい。
が、残念ながら美絵子は検診でいない。
生まれてくる我が子のためにも、ここは頑張るしかないだろう。
と、考えながらも小さな溜息が漏れる。
「早瀬先生は美人よ~」
(……美人教師か)
思わず期待してしまう自分。
その心を読んだのか、美和がニヤリと笑った。
……こんなことまで言えるようになったとは。
そろそろ、結婚について、本当に心の準備をしなくてはならないのかもしれない。
ピンポーン。
マンション特有の模範的なチャイムが鳴る。
「来た~」
ばたばたと音を立てて美和が玄関に向かって走って行った。
「転ぶぞ~」
達之も立ち上がり美和の背中を追いかけた。
(やっぱり、まだまだ子供だな)
はしゃぐ美和に少し安堵しながら、達之は顔の筋肉を引き締め、シャツの襟を直した。