大海の一滴
「素敵なカップですね」
美和の用意したティーセットに、早瀬先生が微笑む。
「貰いものなんです」
小さな金色の蝶をあしらった、品の良いティーカップを眺めて達之も微笑み返した。
つい先日、子供が生まれるお祝いにと、美絵子の友人の秋野さんという人が持って来てくれたものだ。
彼女と会うのは、確か結婚式以来の数年ぶりだったはずなのに、達之は彼女のひやりとした微笑みに何故か懐かしさと強い親近感を覚えた。
が、彼女の方は別段達之に興味を示しておらず、なんだとがっかりした自分に、またがっかりした。
そんなどうでもよいことまで思い出し、思わず苦笑する。
三者面談は実に滞りなく進んで行った。
美和は達之の学生自分とは正反対に、非の打ち所のない優等生振りを学校生活で発揮しているらしかった。
「美和ちゃんは、明るくて友達も多く授業態度も大変立派です」
「そうですか。家では落ち着きがないもんだから、少し安心しました」
「そんなことない。美和、家でも落ち着いてきたもん。だってお姉ちゃんになるからね」
「そうね。美和ちゃん、お母さんのお腹に赤ちゃんが出来てから、他のお友達の面倒も率先して見てくれるようになったし、お掃除や給食当番なんかも、しっかりやってくれるようになって、本当に頑張っているものね」
「えへへ~。先生の赤ちゃんも早く生まれてくるといいね~。それじゃ、わたし、紅茶のお替り入れてきますね~。お父さん、美和の分のお菓子食べないでね」
自分の呼び名を喋る相手によって器用に使い分けながらリビングに向かう美和に、達之はまた苦笑する。
どうも先生に褒められて張り切っているご様子だ。