大海の一滴

 早瀬先生も同じ思いを抱いたらしく、お互い無言でしばし笑い合った。

 そのままの流れで尋ねてみる。


「お子さんはいつ?」

「いえ、まだ妊娠三ヶ月ちょっとなんです。だからまだまだ出産は先で、美和ちゃんの担任はしっかり出来ると思います」


「そうですか。おめでとうございます」
「美和ちゃんの妹さんか、弟さんはもうすぐなんですよね」

「いや、うちもまだ五ケ月目で、ようやく安定期に入ったところです。美和が勝手に暴走してるだけなんですよ。あんまり早い段階で子供に教えるとダメですね」
 
 達之は苦笑した。
美和はこのところ「明日生まれる?」を毎日繰り返しているのだ。


「四月に行われた上級生との合同給食会で、美月さんっていう六年生の女の子と美和ちゃんが仲良しになったんです。美和ちゃん、時々美月さんのおうちにも遊びに行っているようなのですが、その美月さんの家には生まれたばかりの女の子の赤ちゃんがいて、それで、余計に美和ちゃんも妹が欲しいと思っているみたいなんですよ」

「そう……ですか」

 この間の検診で偶然エコーに特異的な陰が写ってしまい、生まれるのは男の子だと判明した事実は、美和にはまだ伏せておこう。



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