大海の一滴

SACHI

リーダー
      指導者、統率者。印刷で点線、破線。フィルムや録音テープの先端の引き出し部分。釣りの鉤素のこと。{小学館 デジタル大辞泉引用}

意味はいろいろあるらしい。だけど私が言っているのは指導者、統率者の方。


 渡辺さんは言った。
「まあちゃんって呼んで良いよ。私もさっちゃんって呼ぶね」

 私の事をさっちゃんと呼ぶ人はいないし、渡辺さんの事をまあちゃんと呼びたいとも思っていないけれど、面倒くさいので承諾した。

「でさ、今度ウチの家でバーベキューパーティするんだけどさっちゃんも来ていいよ」
 それは面倒くさいのでおばあちゃんの具合が悪いことにした。

「そうなんだ~、さっちゃんもいろいろ大変だね。でも偉いよね。きっとおばあちゃん良くなるよ」
 渡辺さんが深刻そうな顔をしているので、一応私も「ありがとう」と深刻な顔で応えた。

「そうそう、バーベキューあること、かおりちゃんには内緒にしてね」
 渡辺さんは重大な国家機密を私に教えるみたいに声を潜めて言った。

「あの子さー、いっつも呼んでないのに来るんだよねー。それに妙に威張るし。みんな本当は迷惑してて困ってるんだ」

 渡辺さんが、今度は困った顔をして、でも嬉しそうに付け加えた。

「ほら、私リーダー体質だから、みんなに頼られちゃって。本当に困るよね」
「まあちゃ~ん、ちょっといい?」
「先生が、みんなの日記帳持ってきてって言ってるよ~」
 遠くからかおりちゃんと他数名が渡辺さんに向かって手を振っている。

「今行く~。忙しくてごめんねさっちゃん。私先生にも頼られてるからほんと疲れるよ。まあ、学級委員長だから仕方ないけどね。じゃね」
 嬉しそうに困った顔をした渡辺さんは、忙しそうにかおりちゃん達の所へ走って行った。

「さち~、消しゴム忘れたからちょっと貸してくんない?」
 途中、渡辺さんがこっちに向かって意味ありげにウィンクして来たけれど、アリサちゃんがやって来たので見なかった事にした。

私は面倒ごとが嫌いなタイプなのだ。

(なんだか陰謀の匂いがするわ)
難しい顔を作りながら、カッターで消しゴムを半分に切ってアリサちゃんに手渡す。

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