大海の一滴

結託
     互いに心を通じて事を行うこと。示し合わせてぐるになること。「業者と―して私腹をこやす」{小学館 デジタル大辞泉引用}


「さち~、大変、大変」
 ある朝、アヤネちゃんが飛んで来た。

「黒板! とにかく来て」
 アヤネちゃんは下駄箱でずっと待っていて、私の手を引っ張った。

 ランドセルがガチャガチャ音を立てる。やっぱり筆箱は良くない。
あのマグネット付きのケースはやたらとウルサイのだ。
大人の女はもっとスマートなものを身につけないと。


『ヒューヒュー、熱いね~』
 教室に入るとみんなが言った。

 一番手前の席に座るタケヒロ君が下を向いている。

 耳たぶが真っ赤だ。
多分泣いているのだろう。


「ね、大変でしょ。きっとまあちゃんとかおりちゃんのグループだよ。あの五人、今日の朝、来るの早かったのよね」
 アヤネちゃんが小声で囁いた。

 そういえば、彼女たちは教室の後ろの方で、何やらひそひそと話している。

 にしても、黒板いっぱいの相合傘は大迫力だ。

 名前の『藤川さち』と『佐々木たけひろ』の部分は、チョークを寝かせて大きく書いて、縁取りまでされている。

 回りを埋め尽くしている大小色とりどりのハートも圧巻。

 これを仕上げるにはかなりの時間がかかったことだろう。
早朝からご苦労様である。


「おはよー、どしたの?」
 アリサちゃんが普段どおり、遅めに登校してきた。
彼女は朝が苦手なのである。

「へえ~、さちもやるじゃん!」
 黒板を見て一言。

「アリサちゃん! 無神経だよ」
 笑うアリサちゃんにアヤネちゃんが激怒する。

 どうも二人はぶつかりやすい。
アリサちゃんはなおも笑いながら黒板消しを手に取って、緩やかな円を描いて消していく。

「タケヒロ君なだけマシじゃん。ウチなんか去年、タケシのアホと相合傘書かれて、超迷惑したし」
「テメー、それはこっちのセリフだ。このデカ女」

 
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