大海の一滴

「皆さんグループが出来たみたいですね。これからしばらく、図工の時間はこのグループになっておいて下さい」


 そうして、授業は始まった。


「皆さんには、絵本を作ってもらいます。グループで話し合って題材を決め、OHPフィルムに、場面ごとの絵を描いて下さい。全てのグループが完成したら発表会をしたいと思います。ではまず今日は、図書室で本を探すことから始めましょう」


 移動の途中、アヤネちゃんが服の袖を引っ張って声を潜めた。


「ねえ、さち。本当にいいの? あたし、もう一回グループ決めやり直してもらう様に、先生に言おうか?」

「もういいじゃん、面倒くさいし」
 アリサちゃんが面倒くさそうに言った。

「けどさ~。さちだって嫌でしょ?」
「え? なになに? 何の話してんの?」
 かおりちゃんが中に入ってくる。

「べっつに~」
 と、アヤネちゃん。

「授業中なんだから、静かにしてよね」
 そう言って、渡辺さんたちのグループがくすくす笑って通り過ぎて行った。



「……」

 鋭い目つきになったかおりちゃんが、唇を噛み締めた。



「仲間割れみたいね」

 こそっと言って、アヤネちゃんが物思いに耽った。




 私も物思いに耽る。




 何故だろう。


 この間作った甘くてほろ苦いカレーは、あまり美味しくなかった。

 図書室に着いたら料理本を見てみよう。

 時間も迫っている。



 大人の女に、失敗は許されないのである。



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