大海の一滴

 活発で頭も良く、可愛いから男子受けも良い女の子。

 リーダー素質もあり、学級委員長もしてくれている。
父親は県会議員、母親は保護者会の役員を務めるサラブレットだ。

 保護者会が開かれれば、保護者の皆さんは、渡辺さんのお母様の顔色を伺って発言する。




「あの人に嫌われたら引っ越すしかない」





 そう、母親達が噂しているのを耳にしたこともある。

 渡辺さんの性格は母親似だ。

 彼女は気に入らないものに対して、排除しようとする傾向がある。


 図工の時間以前にも、朝の教室が騒がしかったことがあった。
 黒板にはチョークで何か書かれた痕跡があり、佐々木タケヒロ君がいなくなっていた。
 佐々木君は麗子が教室へ来る前に保健室へ行き、そのまま早退してしまった。

 ただならぬ様子に、保健の先生が訳を訪ねたが、佐々木君は何も話さなかったという。



 ……証拠は無いけれど、おそらくは渡辺さんの仕業。

 彼女は何かにつけて佐々木君のことを「なよなよしていて気持ち悪い」と話していた。


 図工の時間の被害者は、高橋かおりさん。


 絵本製作のために移動した図書室で、いきなり彼女は泣き出した。

 高橋さんも理由を教えてはくれなかったが、いつもなら渡辺さんのグループに入るはずの高橋さんが、グループ分けで取り残された。


 それに彼女の、渡辺さんを見る、あの目つき……。

 激しい憎悪が滲んでいた。



(あれは、私の観察不足と怠惰のせいだわ)

 渡辺さんと高橋さんは性格も似ていて、何かとお互い張り合っている面があった。

 本当は、以前から少し引っかかっていたのだ。

 けれど、表面上仲も良さそうだったし、良い意味でのライバルになっているのだろうと、さほど気に留めてなかった。

(違う……)


 ただ単に、見ない振りをしたのだ。


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