大海の一滴
 ハァ~。

 ペリエをまた一口飲む。

 突き刺すような刺激の炭酸までもが、麗子を責めている気がした。



(何とかしないといけない)

 渡辺さんのような性格の子はそう珍しくはない。

 教育心理学の本にもわりと対処法が記載されているし、初めて受け持った小学二年生のクラスにも、同じようなタイプの男の子がいた。


(そうよ)

 あの時は問題が起きてすぐ対処法に従って学級会を開いた。
結果、団結力が強まりクラス全体が一つに纏まったじゃない。

 あの時の肋骨をくすぐるような、なんとも言えない感覚は今でも鮮明に覚えている。

(でも……)

 
 カラン。

 タンブラーをまた口元へ運ぶ。

 底に向かうにつれて、薄れていく炭酸が、今度は不安を煽りはじめる。

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