大海の一滴
偶然の再開後、折角だからと大学のカフェテリアで麗子は秋野さんをお茶に誘い、麗子はオリジナルブレンドを、秋野さんはポット入りのカモミールティを頼んだ。
学生時代からさほど親しかったわけでもない二人の会話は、共通の話題に乏しく、それぞれの飲み物が空になった時点でまた他人に戻るはずだった。
一哉にすら話せなかった心の問題を不意に打ち明ける気になったのは、無関係が醸し出す、奇妙な安心感のせいだったのかもしれない。
いつの間にか麗子は、世間話の延長のように、努めて何でもない、たいした事ではないという風を装いながら、自分のことを語り出していた。
麗子が小学校の教員をしていること。
ずっと順調にやって来たけれど、新しいクラスを受け持ってから少し調子が悪いと感じること。
ここ最近になって、クラスの人数を一人減らして考える癖が付いたこと。
それが何度気をつけても直らず、配布するプリントの数を間違えてリーダー格の女の子にからかわれていること。
理由があるにせよ、クラスに苛めの兆候があるのを知りながら静観していること……。
一度話し始めると、せき止めていたダムが崩壊したように、次々と言葉が勝手に溢れ、麗子は自分でも止められなくなっていた。
本当は話すつもりのなかったもの、そこまで深刻に考えていなかったはずのものまでが、麗子の許可無しに、どんどん口をつく。