大海の一滴
彼女は麗子の話が終わりだと確認すると、今度は私の番ねとばかりに、ポツリ、ポツリと自分のことを話し始めたのだ。
三年間勤めていた事務の仕事に疑問を感じて、なんとなく辞めてしまったこと。
辞めたはいいがしたいことも見つからず、二年間、職を転々としていたこと。
習い事でも始めたら? と彼に言われて通信教育でカウンセリングを学び始めたこと。
去年から小さな企業で産業カウンセラーとして働き始めたこと。
最近その彼と別れたこと。
抑揚の無い声と表情で、昔話のように語った後「なんか、話したらすっきりしたわ。ありがとう」と、秋野さんは微笑んだ。
その瞬間、麗子は決めた。
(きっと彼女の言うことなら素直に受け入れられる。例えそれが望んでいない答えでも)
彼女にカウンセリングを頼もう。
「まだ駆け出しで、たいした事も言えないけれど、それでもいいなら」
お茶も兼ねて来週の日曜日にでも家に遊びに来て。
謝礼にスイーツを買って来て貰おうかしら。
以前と変わらないどこかひんやりとした微笑みを湛えて、秋野さんはほほえんだ。
今、彼女の審判は下されようとしている。