大海の一滴
「じゃあ、始めるわ」
もう一度、プリントにざっと目を通し、秋野さんが目で合図を送る。
麗子の緊張は更に大きくなる。
やっぱりうつ病だと断言されるのは、自分が否定されるようで怖い。
「始めに、三つ質問をさせて欲しいの。もし、自分では覚えていなくても、誰かから聞かされたという内容も含めて教えてね」
「……分かったわ」
「子供の頃、たぶん小学校中学年から高学年くらいだと思うんだけど、大きな事故や病気にあったことはある?」
「いいえ、無いと思うわ」
「では、身近な友達や親戚の死に直面して大きなショックを受けた記憶は?」
「二年前、遠縁の叔父が亡くなったけれど面識は無かったし、母方の祖父が他界したのは、私が生まれる前だから無いと思う」
麗子は一つ一つ考えながら慎重に答えた。
「そう」
秋野さんはそこで、間を置いた。
マグカップを両手で包み、しばらくその中に視線を移す。
その姿に、何か嫌な予感をおぼえ、麗子は息を呑んだ。
(きっと、次の質問が核になる)
それはきっと、麗子にとって良くないもの。
秋野さんは、最初の二つの質問に、イエスがあることを望んでいた。
けれど、それは叶わなかった。
張り詰めた空気が、僅かに揺れる。
「最後の、質問ね。……苛めにあった経験は?」
「え??」
何を、言っているの??