大海の一滴

 アルバイト
 本業や学業のかたわら、収入を得るための仕事をすること。また、その仕事をする人。内職。バイト。「書店で―する」「学生―」 {小学館 デジタル大辞泉引用}

 パートタイム
 その企業の所定の労働時間と異なる短時間の勤務制度。短時間労働。パート。⇔フルタイム。{小学館 デジタル大辞泉引用}

 
 つまり、お金を増やす手段である。

 私はベッドの上に横たわり、アルバイトパート情報誌を片手で捲った。
 最近ではクーポン雑誌や住宅情報誌、お稽古事の雑誌までもがゼロ円で売られている。
 便利な世の中になったものね、と考えながらページを捲ってはマーカーを引き、ポストイットを貼っていく私。

 最後のページを読み終わり、最後のポテチを平らげた頃、怖い顔をした女が部屋へ押しかけてきた。

「やっぱり~! お姉ちゃん、それ今日の二人分のおやつでしょ? 美和の分返してよ」
 仕方なくポテチの袋を渡す。

 ヒック、ヒック。ウッ、ウッ。
「ウワ~ン、粉しか入ってない~」
 バタン、とドアが乱暴に閉まった。

「お姉ちゃんのばかあ~」
 遠くから浴びせられる罵声。

「ハアー」
 私は頭を横に二回振る。

 設定は一人暮らしのOLライフだったのに。
 それが美和のせいで台無しだ。
 これだから子供は嫌いなのよ。
 人指し指を舐めると、官能的なしょっぱさが舌の先っちょを刺激した。
 がっかりだ。

 ポテチ(塩味)の一番美味しいところは底に残っているカスなのに。

 バタン。
 美和がまた入ってきた。

 腫れた目が吊り上っていて、不細工な顔がもっと不細工に見える。
「返してよね、美和の五百円! 知ってるんだから! 盗んだのお姉ちゃんしかいないんだから」

 可愛そうに。ヒステリーな女は醜い。
 私は美和に同情しながら、美和用の入室許可証を発行しようと思いついた。
 一枚三十円にしよう。

 世の中は弱肉強食。
 弱いものには住みにくい世界なのである。
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