大海の一滴
TATUYUKI
流石にこのままにしてはおけない。
そう思ったのは、相変わらず続くカレースパイラルにほとほと困り果てていたのが原因、ではもちろんなく、家庭訪問が差し迫っているからである。
来週の日曜、午後二時頃。
『各家庭の訪問時間は十五分程度を予定しておりますが、あくまで目安であり、状況によって前後します。また、訪問日時についても、進み具合に応じて前後する恐れがございますので、あらかじめご了承下さい』
家電の取り扱い説明書に付帯する不可解な注意事項のように、最後の欄に記入された(注)を読んで、達之は首を捻った。
家庭訪問なんて遅れるのが当たり前じゃないか。
生徒には個性があり、優等生もいれば、少々問題のある子もいる。
前者は十五分もかからないだろうし、後者は三十分くらいかかるかもしれない。
そんなことに、保護者がいちいち文句をつけることがあるのだろうか。
達之が子供の時分には無かったことだ。
もしかしたら、ただ知らなかっただけかもしれないが。
しかし、最近渡される保護者へ向けたプリントの最後には、まるで時候の挨拶や結びの文句のように、必ずと言っていいほど注意事項がつらつら並べ立てられている。
やはり、モンスターペアレントは深刻な社会現象になっているのだろう。
美絵子がいなくなって初めて気付いたことだった。
そう言えば最近、達之は子供のプリントに目を通した記憶が無かった。
いかに自分が子育てを怠けていたか。
反省した。
いつの間にやら、世間にありがちな家庭環境を作り出していた気がする。
もしかしたら美絵子の不満の種は、ここにも落ちていたのかもしれない。
が、反省は取り合えず置いておいて、今はもう一度美絵子の携帯に電話することが専決である。