大海の一滴
発信音と共振して、ガタタタタ、と寝室のどこかが小刻みに波打っている。
達之はそのまま発信音を鳴らし続け音源を捜した。
トゥルルルルル。ガタタタタ。
(ここか)
振動は、美絵子愛用の古い三面鏡の引き出しから排出されていた。
母から譲り受けたという、昭和初期を思わせるような(もちろん達之自身、昭和初期を知っているわけではないのだが)深みのある木製の鏡台、その小さな引き出しの二番目に、手をかける。
ブルルルルル、ブルルルルル。
達之と同じ薄型機種で色はピンクパール、親指くらいのウサギのストラップがついた携帯が、生き物のように細かく蠢いている。
それは紛れもなく美絵子の携帯だった。
(なるほど)
どおりで、何度電話しても出ないはずだ。
美絵子は携帯を置きっぱなしにしていたのだ。