大海の一滴

 達之は考える。


『妻がお世話になっています』
 いや、まずは名前を言うべきだな。


(……そもそも、知らない番号から電話が掛かって来て、取って貰えるだろうか?)

 留守電に用件を残すにはいささか内容が複雑すぎる。

 それに、相手からの電話を待つ時間ってのは、精神的に辛いものなのだ。
出来れば、一気に、さっさと済ませてしまいたい。


 達之はしばらく思い悩み、再び三面鏡の引き出しを開けた。


(やはり、美絵子の携帯から掛けた方がいい)

 待ち受け画面に光が点り、また三人の写真が現れる。
達之はつい先程メモしたばかりの十一桁を直に打ち込んで、発信ボタンを押した。



 トゥルルルルル、トゥルルルルル。


 規則正しい呼び出し音が耳元で響く。緊張で脈が速くなる。




 トゥルルルルル、トゥルル。


(……でなければいいな)


 そう思った途端、プチッと通話状態になった。


(やばい! 何から話そう)

 おろおろ考えあぐねていると、有り難いことに先方から話し始めた。



「久しぶりね」



「え? あの」




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