大海の一滴
達之は口ごもった。
久しぶりってことは、美絵子と一緒じゃないのか?
……それとも美絵子から事情を聞いていて、そろそろオレが美絵子の携帯から連絡してくると予測していたのだろうか?
いや、それにしてはフランクな話しぶりだ。
一瞬のうちに、様々なことが頭をよぎり、消えて行った。
(……つまり、美絵子はいないってことだ)
そう気が付いて、落胆する。 同時に、困った事になったと思う。
「失礼しました。私藤川と申しますが、そちら秋野月子さんの携帯で宜しいでしょうか」
「ええ、そうですが。あなたは、美絵子の?」
「夫の達之です。すみません、ええと。結婚式とそれ以前に一度、お会いしたことがあるのですが。ええと、その」
想定外の状況に、頭の中が真っ白だった。
「すみません、何をどう話したらいいのか」
「美絵子に、何かあったのですね」
「え? ええ。実はまたちょっと家出をしてまして。その、もう一月になるんです」
「そうですか」
(あれ?)
「……事件性は無いと思います。毎日私のいない頃合を見計らって、家に戻って家事をしているようなので」
「ええ」
(何だ、この違和感)