大海の一滴
そうか。
彼女の話し振りには全く動揺が見られない。
普通、電話越しであっても、少しくらい相手の感情を聞いて取れるはずだ。
が、彼女の言葉は全く機械的で、何の思いも込められていないように感じる。
随分冷静な人だな。そう考えながらも達之は続けた。
「実は、子供達の家庭訪問が近づいていて、何とか連絡を取れないものかと考えていたら、以前美絵子が家出をした際に、あなたのところへご厄介になっていたのを思い出しまして。もしかしたらとお電話差し上げたのです」
「そうだったんですね」
「…………」
(なるほど、そういうことか)
達之は沸々と怒りが込み上げてくるのを感じていた。
たぶん、この人と話していても時間の無駄だ。
何故なら、彼女にとっての美絵子はその程度の存在なのだから。
「他の友人のところへでも伺っているのでしょう。ご迷惑をおかけしました。では」
電話越しに軽く会釈をして、達之は早々に会話を打ち切ろうとした。
「先程、子供達と仰いましたが、お子さんは何人いらっしゃるのですか?」
「は? 娘が二人ですが」
「失礼ですが、おいくつで?」
「小学校一年生と、五年生です」
(今、そんなこと関係ないじゃないか)