大海の一滴

 大きくなられましたね、と月並みの言葉でも並べるつもりなのだろうか。

 いよいよ頭にきた。
人が真剣に話をしているのに彼女の応対は非常識だ。
 美絵子は一体、何でこんな女を信頼していたのだろう。

「とにかく、他をあたってみますので」
「近いうちに会って話をしましょう。電話だけでは、微妙なニュアンスが伝わらないと思いますので。私も、美絵子の友人ですから」

「は?」
 達之は少し混乱した。

 相変わらず、冷静で感情の無い言い方だ。

 けれど、心配しているということだろうか?


 迷ったが、結局のところ他に美絵子を探す当てがないことに気付き、その提案を受け入れることにした。

 あまり気乗りしないが、美絵子が彼女を慕っていたのもまた事実なのだ。

「分かりました。実は最近仕事が忙しくて、週末にしか時間を空けられないのですが」
「私も、その方が都合がいいです」

「では、来週の土曜日はいかがでしょう。日曜日には娘の家庭訪問があるので。時間はそちらにお任せします」
「分かりました。時間と場所については、また後日ご連絡致します。差し支えなければ、そちらのメールに詳細をお送りしたいと思うのですが」

「そうですね、お願いします。アドレスは……」
「……ですね。では、後ほどご連絡差し上げます」

「宜しくお願いします。では、また」

 話は淡々と進み、受話器を耳から離すと軟骨の辺りが充血して少し熱を持っていた。余程力が入っていたようだ。

 手の平にもねっとりと汗が滲んでいる。

 達之は携帯をベッドの上に放り投げ、同様に自分の身も投じた。
頭の後ろで両手を組み、天井を仰ぐ。



(秋野月子。どんな人だったっけ……)







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