ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「え、ミツおれと同い年なんだ。」
 細い切れ長の目がミツに向く。
「洋二、絶対おれのこと年下だと思ってただろ。」
 ミツはベッドに寝転がり、雑誌を見ている。

 洋二の部屋は、お湯は出るようになったものの、
やはり蛇口の閉まりは悪いらしい。
あとこれは洋二の金銭的問題だが、
インターネットができるパソコンがなく、
ミツのマッキントッシュを借りに来る。
カチカチとマウスを鳴らしてモニターを睨みながら洋二は言った。

「そんなことねーよ。誕生日いつ?」
「三月。三月十五日。」
「ほら、やっぱりおれのが年上。おれ二月十五日。」
「やっぱりって、年下だと思ってたな。」
「おれらって。ちょうど一月違いなのな。」
「マジだ。」
「あと数ヶ月でハタチってどんな気分?」
「実感ねー。」

 洋二はちゃっかりプリントアウトして、A4の紙を揃え、
お目当てのページの印刷を確認している。

「ミツさぁ、今度おれのバンドのライブ来ない?」
「え?ライブやんの?いつ」

 ミツは雑誌から顔をあげ、洋二を見る。
赤茶のうっとおしい前髪の奥に切れ長の目。
目があうと洋二はすぐに目をそらす癖がある。
パソコンに向き直った洋二の首から下がるドッグタグが
金属音を小さく立てる。

「来週。」
「すぐじゃん。」
「そう。だから明日から結構忙しい。」
「へえ。」
「行くよ。」
 ミツはできるだけ、興奮をおさえて返事をする。

「おう、バンドのメンバーも紹介するよ。」
 洋二はA4用紙の端を指で遊び、照れくさそうに言った。
「じゃあ、これ、ありがとな。」
 A4用紙をぺらぺらと振る洋二。
「あー。がんばれよ、つーか家で練習すんな。」
「ムリ。おれってマジメだから。」
 鍵を閉めるついでに、ミツは洋二を玄関まで送る。
ドアの向こうでザッザと洋二がサンダルをひきずって歩く音が聞こえる。
ギィー、バタンと隣のドアが閉まる。

 ライブか・・・。ミツはベッドに戻って、
さっきまで読んでいた雑誌を閉じる。
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