ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「へえ、ミツ映像の勉強してんだ。」
 ひとしきり空腹を満たして、おいしそうに一服するサトシ。

「いや、つっても自分でなんか作ったりとかないですし。」
 ミツは恥ずかしそうに箸を迷わせる。
「じゃあさ、今度おれらのライブ撮ってよ。」
 サトシは長く煙を吐き出した。ミツの箸がぴたりと止まる。

「いいじゃん!それ!」
 裕太はフライドポテトを口に運びながら答える。
ミツは首ごとぐるりと裕太を見る。そして、洋二を見る。
「そうか・・・」
 洋二はぽかんとした表情で空を見つめる。ミ
ツは自分の心臓が急に肺を打ち上げる動きを感じた。

「超いいじゃん!それ!ああ、もう!
 なんで今まで気づかなかったんだ、おれ!」
 洋二は細い切れ長の目を目いっぱいに開きテーブルに乗り出して
ミツの顔を正面から見据えた。

「ミツ、おれらのライブ、撮ってくれよ。」
 洋二はいつでも音楽の話をする時には、
今と同じように目を見開いてミツに語った。
その視線が今、ミツに向けられている。

「私も、フラワーのライブ、見てみたいなあ」
 羽月がグラスの雫を指ですくいあげながら、少しアルトな声で言った。
アーモンドのかたちをした目が、アルコールで少しとろんとしている。
桃色の頬を両手ではさんでミツにとろんとした視線を向けた。

「いいよな?ミツ!」
 洋二はますます身を乗り出して、今にも皿の上に手を置きそうだ。
「ちょっと待て、洋二。ミツ来年卒業なんだろ?
 いろいろやることもあるだろうから、まずミツの意見を聞け。」
 サトシは洋二を制止するように、
洋二の近くで倒れそうになるグラスを移動させた。
我に返ったように洋二はサトシを振り返る。

「大丈夫です!」
 ミツは、テーブルに両手をついて思わず立ち上がった。
緊張した中で酒を飲んだからだろうか、少し頭に痛みが走る。

「おれに撮らせて欲しい。絶対に、絶対にかっこいいの、作るから!」
 ミツは自分自身に言い聞かせるように、絶対、と二回口にした。

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