ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「ミツ」
 固定カメラ担当の林がミツを呼んだ。
「やっぱおれらもマニュアルで合わせてくの厳しいかも。」
「そうか・・・」
「うん。失敗したからもう1回ってわけにいかないし、
確実に撮れたほうがいいと思う。
全体的にぼかしたいんなら素材にあとでエフェクトかけるほうが
いいんじゃないかな。」
「そうだね。じゃあ2台ともオートに設定して。
でも、メンバーのアップ撮るときだけはなるべくマニュアルにして。」
「OK。努力する。」

 ステージから真剣に打ち合わせをするミツの姿を洋二は見ている。
黒い小さいバッグを肩から下げて、まるでテレビで見たADのようだ。
ステージにいる洋二たちよりも額に汗の粒を浮かべている。
一曲終わって洋二が振り返ると、羽月が笑いかけた。
ミツくん頑張ってるね、と口パクで伝える。

 フラワー・オブ・ライフの出番まで、
ミツたちはライブハウスの外で最後の打ち合わせをした。
ライブハウスの控え室では、洋二がギターを抱えて、
指だけを動かせている。羽月が隣に来てパイプ椅子に腰を下ろす。

「かっこいいとこ見せたいね。」
 羽月はミツを覗き込む。
やわらかい髪がふわりと揺れて、甘い香りが跳ねる。
「おう。」
「いつも通り、思いっきり演ればいいよ。」
「おう。」
サトシが短くなったタバコを灰皿に押し付けた。
「そろそろ行くか。」
「おう。」
 裕太が洋二の真似をして答える。
「裕太、似てねーよ。」
 と、サトシがあきれる。
「真似すんじゃねーよ。」
 と、洋二がふてくされる。
「行こうっフラワー・オブ・ライフ!頑張るぞっおー!」
 羽月が両手を上げる。
「羽月ぐだぐだにすんなよー。」
 サトシはベースを手にとる。四人はゆっくりと、小さく輪になった。

 真っ暗なステージに四人が入ってきたことがわかる。
かろうじてわかるそれぞれのシルエットと、
準備をするかちゃかちゃとした音。

いくつか音を鳴らして調節した後、
裕太のドラムのスティックが鳴って、
射抜くようにスポットライトが光の集中砲火を放つ。
光の弾幕と、激しいイントロの中から
フラワー・オブ・ライフのメンバーが浮かびあがる。

 ミツは、両手でカメラを構え、メンバーを追った。
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