ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「大学出て小さい印刷会社に入って、
ハゲたオッサンの後ついて営業まわって、根性なくて嫌んなって辞めた。」
「そうだったんすか。」
ミツは少し笑った。
店長も照れたように口元を緩めた。

「なんも考えてなかったなぁ、あん時。」
店長は伸びをした。
「辞めて良かったのか、悪かったのか、今でもわかんねえな。
辞めなかったおれがいたらわかるかもしれねえけどさ。」
「そうっすね。」
「比べられねえからなぁ・・・。」
「・・・そうっすね。」
店長はスクリーンセーバーが始まったモニタを、
マウスを指先でつついて元の画面に戻した。

「正月までは出てくれよ。」
「わかりました。」
ミツはぺこりと頭を下げ、奥の休憩室に向かった。
「どうせ、何やったって後悔すんだ。なんだってできるぞぉ、おれは。」
ミツの背中の後ろで店長が独り言のように投げかける。
ミツはその声を聞いて肩がふわりと軽くなるのを感じた。

ミツはバックヤードで買っておいたコンビニ弁当をレンジに入れた。
オレンジ色の光の中で回るコンビニ弁当。
店内のクリスマスBGMが聴こえてくる。

携帯を見ると、裕太から着信があった。
ミツは携帯を耳にあてた。
「・・・・もしもし?裕太、電話くれた?」
電話の向こうで裕太の明るい声がする。
「おう!ミツ。今日バイトしてんだってな。さみしいねえ。」
「うるせえよ。」
ミツは思わず笑って答えた。

「なんだよ、洋二みたいな言い方しやがって。」
「なんか用だったの?」
「そう。今日サトシくんが集まろうって言ってただろ。」
「ああ、裕太は彼女いるからいかないってやつだろ?」
「そうそうって、そうなんだけど。」
がははと笑う裕太。裕太の彼女は幸せだろうな、とミツは思う。

「なんかよ、洋二も急にバイトいれちまって行かないらしいんだ。」
「え?マジで。」
「そうそう、だからさ、その、ミツがバイト終わって駆けつけちまうと
あれかな、と思って。」
裕太は少し、声のトーンを落とした。
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