ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
「ああ、そうだ。おれ花火持ってきたんだ。」
裕太がごそごそとビニール袋をバッグから取り出す。
「花火ぃ?」
「寒くね?」
「大丈夫だろ。冬の花火、いい感じじゃね?ろうそくもいっぱいあるし。」
裕太は花火の束を出してニッと笑う。

「裕太、ケーキ用のろうそくは花火に使えねー気がする。」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと普通のろうそくも持ってきた。」
「おれ、ライブ前に風邪引いて喉壊すの嫌なんだけど。」
洋二は反対を表明したが、
「バーカ!一ヶ月も風邪引くやつは死んじまえよ!」
というサトシくんの言葉で、近くの公園で花火をすることになった。

「あれ?おい、これなかなか火ィつかねーな。」
洋二が手持ち花火をろうそくに当てながら言う。
風が吹くとすぐにろうそくの火が消えてしまう上に、
花火になかなか火がつかない。
「裕太、これもしかして去年のじゃねーか?」
サトシが手をこすり合わせながら、裕太を睨んだ。
「やっぱ湿気ってんのかなぁ?」
裕太が花火を覗き込む。
サトシは呆れ顔で見ている。

その時やっと、花火が鮮やかな火花を出した。
顔を近づけていた裕太は慌てて離れて、尻餅をついた。
「撮ってんじゃねーよ!ミツ!」
裕太がカメラを回すミツに飛び掛る。
洋二が花火を持って裕太を追いかけだした。
「やめろ!洋二!あちっ」
羽月は涙を浮かべて笑っていた。
真冬の公園に、いくつもの鮮やかな光が灯った。

花火が底をついて、サトシが腕時計を見た。
「んじゃ、そろそろお開きにすっか。」
「裕太、歩き?」
「おう、飲むからな、歩いてきた。」
花火の燃えカスに拾ったペットボトルで水をかける裕太。

ミツは洋二を見た。
ブランコの前の低い鉄の囲いに腰掛ける洋二。目をふせて動かない。
「羽月、帰るぞ。」
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