ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
サトシくんが、羽月の置いてあったバッグを手渡す。
「・・・うん。」
羽月は恥ずかしそうに、サトシに歩み寄ってバッグを受け取った。
「じゃあな、ミツ、洋二。」
「おやすみ。今日はありがと。」
羽月がにこりと微笑む。
従順な子犬のように軽い足取りで、サトシを追う羽月。
ミツはそれを目で追った。

三人が公園から出て行って、裕太は左に、羽月とサトシは右へ曲がった。
車道側に立つサトシの姿が、羽月越しに見える。
マフラーで隠れて羽月の表情はわからない。
やわらかな栗色の髪がひょこひょこと揺れる。
二人の姿が見えなくなるまで、ミツは見つめ続けた。

ミツは洋二の隣に腰掛けた。
洋二は何も言わない。
真冬の風が残った枯れ落ち葉を舞い上げる。

ミツの吐いた息が白く夜空に溶ける。
曇り空はいつのまか晴れ、オリオン座がきらめく。
洋二が何も言わないので、ミツはしばらく無言で待った。
足の裏から地面の冷たさが這い上がってくる。

「ミツ。」
「ん?」
やっと洋二が口を開いた。
うつむいたままで。
弱々しい声。
「今、撮ってんの?」
「撮ってないよ。」
ミツは夜空を見上げたまま言った。

「じゃあおれ、泣いて大丈夫?」
そのままの姿勢で答える。
「どうぞ。」
しばらく無言が続く。
「やっぱ泣けないわ、おれ。」

ミツは洋二を見た。
細い肩がダウンを着ていてもわかる。
耳が赤いのは寒さのせいか。
「じゃあ撮ろうかな。」
ミツはすっかり冷たくなったビデオカメラに手をかけた。
「このやろっ」
洋二は立ち上がって、ミツの横腹に一発入れた。
「って!何すんだよ。」
洋二は拳を振り上げたミツから逃げた。
二人の白い息が後方に流れていく。
寒いのでそのまま走ってアパートに帰った。
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