ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
やっとメンバーも残ったサンドイッチを食べる余裕が出てきた頃、
十二時を回った。

事前に配られていたクラッカーを一斉に鳴らし、
羽月と裕太がバースデーケーキを運んできた。
皆でわけられるくらいの特大のケーキで、
ちゃんと二十本のろうそくが立っていた。

「洋二、お誕生日おめでとう!」
ファンの女の子たちが次々にプレゼントを渡す。
洋二は一つ一つ受け取りながら、
「ありがとー!」
と、叫ぶ。

今日は羽月がキーボードを弾いて、
全員でHAPPY BIRTH DAY TO YOUを歌った。

「裕太は離れてろよ。」
と言うと洋二はケーキに顔を近づけ、
思いっきりろうそくの火に向かって息を吹きかけた。

いっぺんには消えなかったのでもう一度洋二は息を吸い、残りの火を消した。

全てが消えると拍手が起こった。
洋二は笑顔を見せ、頭を下げた。

ミツのカメラのファインダーに洋二の笑顔が映る。
さっきまでの仏頂面が嘘のように、皆に愛想を振りまく洋二は、
ミツの知らない男のようだった。

ファインダーを見つめたまま、ミツは顔をゆがめた。
遠くから、沈んだ表情のミツを見止めた洋二は、思いっきり笑ってみせた。
ミツもつられて、少し口を緩めてみた。

洋二、洋二は楽しくて笑ってんのか?
それとも、洋二はもう、楽しくなくてもそんな顔ができるようになったのか?

ミツはファインダーの中で笑う洋二に問いかけた。
洋二は誰にも笑顔を振りまいて、切れ長の目が糸みたいになっていた。
洋二、洋二はおれより先に、大人になっちまったのか。
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