ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
卒業

1

 楽しくなくっても 笑っていられるようになったんだ
 おまえも 大して変わらないんだろう

三月になった。
静まり返った六畳間でミツは目を覚ます。
まだ朝晩は底冷えする。
起き上がってカーテンを開けると、柔らかな日差しが差し込む。
目を細めて日差しを浴びる。
窓伝いに隣を伺う。
何も干していないハンガーが色あせて揺れている。

「中野くん」
学校の廊下でミツは呼ばれて振り返ると、講師が立って手招きしている。
「なんですか?」
「このあいだ提出した卒業作品のドキュメンタリーなんだけどね。」

ミツの通う専門学校では、何か一つかたちにして卒業作品として
提出することになっている。
ミツはフラワー・オブ・ライフのメンバーを撮り溜めた映像を編集し、
一時間弱のドキュメンタリーとして提出した。

「すごく好評でね、今度の選抜上映会に選出されたよ。」
「はぁ、それはどうも。」
 ミツは気のない返事をする。
「卒業後はどこか決まっているの?」
「いいえ、何も・・・。」
「そうか。君さえ良ければ、少し時間をかけて編集しなおしてみないか?それこそどこかのコンペに向けて作ってもいい。」

廊下を舞う埃が日差しを受けてキラキラと光る。
「いえ、それは、もう、考えてないです。」
「そうなのか?残念だよ。」
「すんません。」
「じゃあ、選抜上映会でも講評やるから。」
講師の後姿が遠ざかっていく。
ミツは窓越しに空を見上げる。
四角く切り取られた空。

ファインダーの中に、何もかもおさめられたらいいのに、
ミツはぼやけた頭で考えた。
< 51 / 61 >

この作品をシェア

pagetop