メロンパンにさようなら
『…メロンが行くんなら……』
開けようとした扉を開けられなくなったのは、中にいるのが、高見翔だって分かったから。
“メロン”
って名前が出てきたことでなんとなく開けることが出来ず、聞いちゃいけないって分かっているのに、その場から離れられないでいた。
『惚れてんの?』
『そんなんじゃねぇよ』
『ふぅん。陸上には、いつ戻るつもり?』
『悪いけど、春休み入るまで世話になってもいいか』
『俺は別に構わねぇけど』
春休みまで、あと1ヶ月。
高見翔と、こうやって一緒にいられるのも、あと1ヶ月
陸上部に戻ったら、女の子たちに、またキャーキャー騒がれて、こうやって、私とは会うことなんてなくなって、すぐに私のことなんて忘れて、赤の他人になるのだろう。
校内で出会ったとしても、“メロン”なんて呼ばれることもなくて、ただ、知らない者同士みたいにすれ違って。
高見翔は、【有名人】という、遠い存在になってしまうのかな。