メロンパンにさようなら

なんで、いつもみたいに“メロン”とは呼ばずに、“佳奈”って呼ぶの?


ほら、その表情もいつもと違い、まるで愛しいものを見るみたいだから、戸惑ってしまう。



「……なんで?」

出てきた言葉は、余りにも小さくて、夜風に吹かれて空に吸い込まれた。


「何が?」

だけど、目の前の彼にははっきりと聞こえていたらしい。

「なんで、名前……」

名前で呼ぶの?と聞こうとすれば、

「惚れた奴の名前呼んで何が悪い?」

ドキドキと煩く鳴り響く胸の音は、更に加速する。


「な、何、冗談、」

「冗談じゃないって言ったら?」


真剣な顔で、そんなことをさらりと言うから、誤解してしまう。


惚れたなんて、簡単に使わないで。
私のことを?って思ってしまう。


「からかわないで、ください」


口から出た言葉は、自分を保つための言葉。

いつものように、冗談だ、なんて言われてからかわれて、傷つく前に、自分の中で言い聞かせておくの。


ねぇ、何か言ってよ。
何も言わないで見つめてるなんて、ズルいよ。


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