菓恋(かれん) ~be+ひと目惚れing~

「“違う”って…?」

「俺はガキの頃からパティシエとして働くおやじの背中をずっと見てきた。そして、おやじが作ったお菓子を食べたときの、お客さんたちのニコニコの笑顔もたくさん見てきた」

「ニコニコの笑顔…?」

「あぁ。不思議なもので、お菓子を食べると、さっきまで泣いてた子どもも笑うし、失恋したばかりの女だって笑う。いかめしい顔をした中年オヤジさえ笑う。お菓子を食べるとみんな笑ってやさしい顔になるんだ」

「みんな笑ってやさしい顔に…」

「だから、みんなを笑顔にする仕事――つまりパティシエとして働いているおやじのことをずっと見てきて、俺は、父親としてではなく“一人の男”として、あーいう男になりたいって思った」

「………」

「だから俺は、自分で決めて自分の意思でパティシエになったんだ」


「ふぅん…尊敬できる父親がいてうらやましいな……」

「お前は自分の父親がキライなのか?」

「ダイッキライ!」

あたしは即答した。


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