運命のヒト

あのあと、あたしがマンションに帰ったとき、シロの部屋の扉はぴたりと閉ざされていた。

あたしは手早くシャワーを浴びて、いつもの半分くらいのメイクで、いつもより二時間も早く家を出たんだ。


途中、公園に立ち寄って、自販機でホットココアを買ってこのベンチに座った。

そう、“あの夜”にシロが寝ていた、このベンチ。


……ほんの7日前なんだ。ここで、シロに出逢ったのは。


――『美園』


突然名前を呼ばれ、抱きしめられたあの夜。

確実に何かが始まったあの夜を、あたしはもう、ずっと前の出来事みたいに感じる。


そのとき、バッグの中の携帯がけたたましい電子音を響かせた。

毎朝鳴るように設定している、7時のアラームだ。


「……あれ?」

ボタンを押してアラームを止めながら、ふと、あたしは違和感を覚えた。


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