運命のヒト

「は? 0時?」

オバサンはゴミを拾う手を止めて、キョトンとした顔で答えた。


「あの鐘はただの飾りだから、何時でも鳴らないよ」


……え?


「で、でも、あたし確かに聞いて――」

「そもそも深夜なんかに鳴ったら近所迷惑じゃない。わたしは近くに住んでるけど、鐘の音なんか一度も聞いたことないわよ」


どういうこと……?

目を見開くあたしに、「夢でも見たんじゃないのぉ?」とオバサンが笑う。


そんなわけがない。あの夜の出来事は紛れもない現実だ。

でも、じゃあ、あの鐘の音はいったい……。



言葉をなくして立ち尽くすあたしを、冷たい風が刺した。




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