運命のヒト
「何か俺に用事があったんじゃないの?」
「……いや。もういいんだ」
大我が苦々しい顔で、形だけの会釈をする。
あたしたちの様子にトシローくんは少し怪訝そうな顔をしたけれど、すぐに愛想のいい笑顔に戻った。
「そんなこと言わずに上がっていってよ。
あ、そうだ。美園ちゃん、知ってた? 俺、きみが初恋だったんだよ。
子供なりに当時は頑張ってたんだけどなぁ」
言われてみれば、たしかに何度か告白っぽいこともされた気がする。
甘酸っぱい当時の思い出を、微笑ましそうに語ろうとするトシローくん。
だけど今のあたしは、思い出話に花を咲かす気分にはなれない。