運命のヒト

シロは観念したような瞳で、じっとあたしを見つめていたかと思うと。

「なぁ、美園」

突然にこっと笑って、言った。


「映画の話でもしよっか」

「……映画?」


こんなときに何を言い出すんだろう。と一瞬怪訝に思ったけれど、すぐにわかった。

これは、シロの閉ざされた扉を開く鍵なんだ。


「そう。俺が今から話すのは、つまらない三流映画のあらすじ。
だから美園は信じる必要もないし、笑い飛ばしてくれてもいいよ」


笑顔でそんなことを言うシロの唇が、かすかに震えている。

それが寒さのせいだけじゃないと、あたしにも痛いほどわかった。

< 266 / 415 >

この作品をシェア

pagetop